一棟目を買ってから、どこか自分が変わった気がした。
「僕は個人事業主なんだ。アパートオーナーなんだ。
自分の名前でお金を稼いでいるんだ。」
そんな思いが、ちょっと誇らしくて。
少しだけ調子にも乗っていたと思う。
その頃から、不思議と電話がよく鳴り始めた。
今まで話したことのない不動産業者からも、
次々と連絡が入ってきた。
「おすすめ物件がありますよ」
「新しいアパートが出ました」
「あなたなら買えると思います」
そんな営業の声が、ほぼ毎日のように飛び込んできた。
そのとき初めて気づいた。
「お金のある人のところには、自然と人が集まるんだな」 と。
もっとも、本当のお金持ちは僕なんかじゃないのだけれど。
そんなある日、ひときわ目を引く物件と出会った。
RC(鉄筋コンクリート)のアパート。
価格は二億円オーバー。

数字を見た瞬間、「さすがに別世界だな」と思った。
けれど不思議なことに、利回りと支出を計算すると、
“手元に残るお金”が思った以上に大きかった。
一棟目よりも安定し、しかも収益が期待できる。
気づけば、頭の中で何度もシミュレーションしていた。
「もし融資が通ったら……」
「もしこれを持てたら……」
その“もし”が現実になるまで、時間はかからなかった。
銀行にも相談した。
担当者は少し驚いた表情をしながらも、
「一棟目の実績があるなら、前向きに検討できます」
そう言ってくれた。
その一言で、背中をぐっと押された。
今思えば、無謀だったと思う。
怖いもの知らずという言葉がぴったりだ。
勢いと、数字のマジック。
それに完全に飲み込まれていた。
「このチャンスを逃す手はない」
本気でそう信じていた。
そして契約の日。
二億円というお金を前にしても、
不思議と怖さよりワクワクのほうが勝っていた。
“ついにここまで来たか”という興奮が、
静かに、でも確かに身体の奥で高鳴っていた。
契約を終えて外に出た瞬間、ふっと我に返る。
「本当に大丈夫か……?」
でも、すぐに「まあ、なんとかなるだろう」と笑っていた。
あの頃の自分を思い返すと、ちょっと恥ずかしい。
けれど、その“勢い”がなければ今の自分はいない。
冷静と情熱のあいだで揺れながら——
僕の賃貸オーナーとしての人生は、またひとつ次の段階へ進んだ。
次回は、管理会社との出会いの話です。
ここから“人との縁”が大きく流れを変えていきます。



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