司法書士事務所で働いていた頃、
司法書士の資格を持たない僕の仕事は、主に営業事務でした。
登記手続きの準備や打ち合わせをしながら、
毎日のように不動産と向き合っていました。
不動産業者さんや銀行員さんと話す機会も多く、
気づけば“土地”や“建物”の話ばかりしている自分がいました。
でも、それはあくまで「他人の物件」の話。
自分で買うとか、経営するとか——
そんなことは、まったく別世界のことだと思っていました。

転機は、突然やってきました。
元気だった祖父が急に他界し、僕は相続人として“当事者”になったのです。
相続したのは、農地を含む土地と古い建物。
他の相続人はお金の面で全く協力してくれず、
相続税の支払いはすべて僕一人の肩にのしかかりました。
高額な税金を前に、どうしていいのか分からず頭を抱えていたとき、
親しくしていた銀行の支店長がこう言いました。
「せっかく不動産を相続したなら、それを活かしてみたらどう?」
最初は何のことかわかりませんでした。
すると支店長は、ゆっくり続けました。
「相続した不動産を担保に融資するから、まず相続税を納めて、
残った資金でアパートを買って経営してみたら?
アパートの購入資金も融資するし、
個人事業主になれば、きっとサラリーマンのままではいられなくなるよ。」
この一言が、僕の人生を大きく変えました。
「自分がアパートを持つ?個人事業主…?」
頭の中はハテナだらけ。
半信半疑のまま、仲の良い不動産業者に相談し、
いくつもの物件を“こっそり”見て回りました。
こっそりと言っても、物件の中に入るわけではありません。
建物の周りを車で一周してみたり、
近くのコンビニに車を停めて、車中からぼーっと眺めてみたり。
他人から見れば「道に迷った人」か「休憩中の人」、「サボっているサラリーマン」に見える程度です。
わからないことばかりで不安もありましたが、
この「買う側の景色」を初めて体感した瞬間でした。
当時の僕は、まさかそれが“副業の始まり”になるとは思ってもいませんでした。
けれど、いま思えば——
あの支店長の一言がなければ、今の僕はいなかったと思います。
次回は、初めて物件を買う話です。



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